メトホルミンにおける禁忌「腎機能障害」等の見直しについて
糖尿病治療において広く使用されているビグアナイド系薬剤「メトホルミン」は、乳酸アシドーシスのリスクから、これまで腎機能障害患者への使用が厳しく制限されていました。しかし、近年の国内外の研究やガイドラインの見直しを受け、2019年8月に日本でも使用制限の緩和が発表されました。
背景とこれまでの制限
1970年代、同系統の薬剤であるフェンホルミンで乳酸アシドーシスによる死亡例が報告されたことから、メトホルミンも腎機能障害患者への使用が禁忌とされてきました。日本では1977年に「軽度を含む腎機能障害患者」が禁忌とされ、長らくこの制限が続いていました。
海外での動向と日本での見直し
2016年、米国FDAと欧州医薬品庁(EMA)は、軽度から中等度の腎機能障害患者でもメトホルミンの使用が可能であると結論づけ、添付文書の改訂を行いました。これを受け、日本でも日本糖尿病学会の賛同のもと、使用制限の見直しが検討されました。
新たな使用指針
2019年5月の安全対策調査会の検討を経て、以下のような改訂が行われました:
禁忌の見直し
腎機能障害患者への投与については、リスク最小化(少量からの投与開始、患者の状態に応じた用量調整、慎重な経過観察等)を行った上で、禁忌は重度の腎機能障害患者(eGFR<30)のみとする。腎機能評価については、欧米の添付文書、日本糖尿病学会のRecommendationで、eGFRによる評価が推奨されていることを踏まえ、これに基づく記載に変更する。
用量の目安
eGFRに基づき腎機能障害患者に係るメトホルミン塩酸塩としての1日最高用量の目安を記載する。
eGFR(mL/min/1.73m²) 1日最高用量の目安 60以上 2,250mg 45~59 1,500mg 30~44 750mg 30未満 禁忌
リスク因子への注意
腎機能障害以外のリスク因子、経口摂取が困難な場合などの脱水のリスクや、過度のアルコール摂取には特に注意が必要である旨を追加するとともに、その他乳酸アシドーシスに関連する注意を整理する。
製剤間の注意喚起の統一
低投与量製剤と高投与量製剤の乳酸アシドーシスに関する注意喚起の差異を是正する。
医療現場での対応
この改訂により、軽度から中等度の腎機能障害患者にもメトホルミンの使用が可能となりましたが、投与に際しては以下の点に留意する必要があります:
慎重な投与
投与は少量から開始し、患者の状態に応じて用量を調整する。
定期的な腎機能の確認
投与中はeGFRを定期的に測定し、腎機能の変化を監視する。
患者教育の徹底
乳酸アシドーシスの予防、初期症状、初期対応に関する患者教育を十分に行う。
まとめ
メトホルミンの使用制限の緩和は、糖尿病治療の選択肢を広げるものですが、乳酸アシドーシスのリスクを完全に排除するものではありません。医療従事者は、最新のガイドラインと患者の状態を踏まえた慎重な対応が求められます。
詳細な情報は、厚生労働省の公式資料をご参照ください。
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